2022年1月 日本教育経営学会会長 木岡 一明

日本教育経営学会ウェッブページの本コーナーにアクセスしていただいた皆様、新年、あけましておめでとうございます。清々しい空気を感じながら、今年こそは、今年もまた、充実した1年を過ごそうと意を新たにされた方々も多いだろうと存じます。

昨年は、コロナ禍の中、目を覆いたくなるような悲惨な事件や痛ましい事故、恐るべき災害に次々と襲われ、いきぐるしい1年でした。本学会にとっても堀内孜元会長がご逝去されるという、たいへん残念なことがありました。皆様におかれては、惨事を乗り越え、あるいは切り抜けられて今年をお迎えになっていること、心よりお悦び申し上げます。

会員ではない方々の中には、本学会は何するものか?という疑問を持たれる方もおられるかもしれません。わたしなりに約めて言えば、「学校や公民館など教育のために人々が集まって一定のルールのもとで仕事を担っている場やシステムを対象にして、その構造や機能のあり方についてよりよい姿を追究していく学を目指している」と説明できるかと思います。会長就任時には、本学会に関心を寄せられている方々に向けて、ご挨拶を兼ねて本学会の性格や教育経営学が目指していることなどについてもう少し丁寧にご案内させていただきました。まだ閲覧いただけておらず、興味を抱かれたのであれば、併せてそちらのご挨拶文もご参照くだされば幸甚です。

図らずも本学会の会長を仰せつかって半年近くが過ぎ、常任理事会をはじめ各委員会や各担当、プロジェクトをお願いしている常任理事の方々による強力な推力と、こまごまと配慮をいただいている事務局の方々からの温かい揚力を受けて、わたしは学会をマネジメントすることに少し見通しを持てるようになってきました(その一方で、定年退職を3月末に控え、研究室の明け渡しの段取りを考えるものの見通しの立たない状況に焦りつつ、4月からの生活をあれこれ思案しながらこの時を迎えています、、、苦笑)。

トップページに掲げていますように、オンラインによる集会の広がりを追い風にして、実践推進委員会による公開研究会が昨年12月にオンラインで開催されました。学会内外の人々と活発な意見交流を行っていただきたいとの願いを委員長に受止めていただいている表れだと思っています。これからも実践推進委員会だけでなくCOVIDー19対応特別委員会によるマンスリーセミナー、国際交流委員会による公開セミナー、あるいは今年6月、上越教育大学を担当校として開催される年次大会(第62回)での公開シンポジウムや紀要編集委員会主催の公開ミーティングのオンライン案内がなされていくかと思います。ご興味のあるテーマがあれば、ふるってご参加ください。

こうした交流を足場にしながら、ぜひはっきりさせたいのが今後の見通しです。そのため、会長に就任して後、前体制を継承しつつ、常任理事会内に新たに本学会の将来ビジョンを構想し、今後のあり方や進め方を検討いただく「将来構想検討プロジェクト」を立ち上げました。それは、わたしが、早晩、本学会が大きな転機を迎えるかもしれないとの危惧を抱いているからですし、その転機に直面する前にあらかじめの準備をできるだけ整え次代に滑らかに繋ぎたいと考えているからでもあります。会員の方々についてみると、世代交代が進んでいることはもとより、入会の契機やそれまでのご経験、職種や職務も多様になっています。学界のグローバル化や大学のガバナンス体制の転換もあります。ICTやAIの急激な発達もあります。以前にも増して研究倫理も厳しく問われています。そこで、本プロジェクトでは、否応なく環境変動に晒されていく中で日本教育経営学会が本学会らしくあり続けるには、何を継承し、何を新たに創造していく必要があるのかをご議論いただいています。今はまだ問題の洗い出しの段階に留まっており、皆様に提案したりご意見をいただいたりするのは先になりますが、上述しました第62回大会において、その一端をラウンドテーブルでご議論いただくべく準備を進めています。ただ、ご関心のある方にはあらかじめお考えいただいたほうがいいと思うところもありますので、気がかりな問題について先取り的に「懺悔」を込めて触れておきます。

わたしは、学校組織開発においては「フィールド研究」を主たる手法にしていました。それは、「なまもの」に触れる愉しさを知ったからですし、「学校」が刻々と変化していく姿に惹き寄せられたからです。ただし、インタビューや観察といっても、事前打ち合わせでの会話(時に雑談)や参加者各自の振る舞い、さらには校内研修の一環であるワークショップを通じたり、校内研修終了後の廊下での立ち話であったりと正規の研究手続きを経たものではなく、校長あるいは教育長からはわたしが見聞きしたことは研究上の資料とすることの了解を得ていましたが、個々の教職員には特別に説明したものではありませんでした。もちろん、論文上にそうして得たデータを直接に引用し分析を加えてはきませんでしたが、その学校の組織状況を理解する「陰のデータ」(論証に用いるのではなく対象理解の内なる論拠)としては使ってきました。しかし近年の規準に照らせば、こうした振る舞いは厳しく問えば研究倫理に抵触するかもしれないと思うようになってきました。

当時は、明確な研究デザインがあるわけではなく、試行錯誤の中にあり、前もって研究の全体を説明するには至りませんでしたし、受け入れてくれた校長や教育長たちも、研究の詳細を知りたいのではなく、その「研究」によって学校がよくなることを願っていたため、問題になることもなく過ぎていました。ただ、研究倫理が気にかかりはじめて以来、頼まれてコンサルティングする以外の目的で学校に入ることは控えるようになりました。

本学会や学校などの「なまの場」をフィールドにする研究にとって、この先、立ちはだかるのは、研究倫理上、あらかじめ何について、研究対象者となる方に説明し事前に了解を得ておく必要があるのかという問題でしょう。その問題は、人間関係や人の集まりを研究の対象とする本学会や教育経営研究では避けがたいと思います。ただ、ここには、具体は述べませんが、わたしの経験に照らしても研究の根幹に関わる様々なジレンマがあります。そのため、上述した「将来構想検討プロジェクト」主催のラウンドテーブルでは、本学会として、学会内外にどんな研究倫理上のガイドラインを示すべきかの議論を始めていただきたいと思っているところです。

さて、深刻なお話はここまでにして、嬉しかった最近のできごとを紹介させてください。わたしには、10年近く関わってきた小学校区があります。契機は、その小学校をコアにした保幼小中連携事業の指定でした。関係する園長や校長、教職員、各園校のPTA役員、社会体育団体の代表、児童委員や民生委員といった方々に集まっていただき、何度かワークショップを開催して、めざす教育プランを作成していただきました。その共通経験を基礎にして、校区内の諸団体・機関の方々の連帯が強化されていき、やがて地域連合の結成に発展し、その事業の一つとして学校支援地域本部(後に地域学校協働本部)の役割を担い、子ども食堂の開設や放課後学習支援、夏祭りなどの地域行事企画・実施などが行われてきました。これらの実績をもとに、子ども支援活動へのある財団による助成金をいただくことになったという連絡が昨年末に届きました。50数件の応募に対して採択結果は2件、しかも満額査定であったとのことでした。この朗報を、わたしが目指している「地域学校経営」(その有り様は稿を改めてご紹介したいと思います)が実現されていく指標として受止めさせていただきました。

もはやわたしには、同じだけの時間とエネルギーを注げるだけの余力は残っていないかもしれませんが、こうした事例がもっともっと増えていくことを望んでやみません。 本学会の会員の方はもとより関心をお寄せいただいた皆様からも、本学会のあり方や進み方に対するご要望やご意見をいただければ幸いです。今年は(も)、嬉しかったことが大いに紹介しあえる学会でありたいと思います。会員の皆様におかれましては、紀要投稿や研究発表の更なるご参加をお願いいたします。会員の方々を含め皆様におかれましては、本年開催される第62回大会をはじめ各公開企画にご参加くださいますようお願いいたしまして、わたしからの新年のご挨拶とさせていただきます。